自然に学び、自然とともに生きる Living with Nature, with Wisdom from Nature


  • 東京理科大学研究推進機構総合研究院 教授
    黒田 玲子
    Reiko Kuroda
    /Professor of Research Institue of Science & Technology, Tokyo University of Science

    皆さん、おはようございます。最初に、この名誉ある機会で皆さんにお話しするチャンスを与えて下さった主催者に感謝いたします。「自然に学び、自然とともに生きる」についてお話しますが、タイトルと少し違う話をするかもしれません。というのも、最初は自然から学ぶための分子生物学についてお話ししようと思ったのですが、皆さんは地質学者、地球物理学者、ジオツーリスト、その他さまざまな分野の専門家でいらっしゃいますので、それに関連した少し深刻な内容に変更しようと決めました。

    私の講演の概要は次の通りです。まず簡単な自己紹介、2番目に地球が直面する緊急の課題、国際協力、科学と社会の協力が求められているということを話します。3番目に、ラクイラ地震の出来ごとから学ぶ科学者と政策決定者の役割。4番目に明日の地球市民、社会リテラシーを備えた科学者、科学リテラシーを備えた市民、科学と社会のかけ橋となり、また自然科学と社会科学と人文科学とのかけ橋となるサイエンスインタープリター及び人々の間に科学への信頼を育てることです。話題が大変たくさんございますので、いくつか割愛するかもしれませんし、早口になってしまうかもしれませんが、ご容赦ください。

    私が何者かご存じない方がほとんどでしょうから、私の話のベースになる経験をご理解いただくために、私の経歴を手短にお話しすることにしました。私はリサーチ・サイエンティストで、研究分野は化学と生物学です。ホストゲスト化学、金属錯体化学、抗がん剤、発がん物質に対する反応、DNAとの相互作用、DNA塩基配列識別に取り組み、現在はキラリティー、つまり固体化学および発生生物学におけるキラリティー研究に没頭しています。本当は皆さんにこうした話をしたいのですが、ご心配なく。本日はこの話はいたしません。私はX線結晶学者、キラル分光学者そして分子生物学者ですが、私の話は研究活動以外のことに基づいています。幸か不幸か分かりませんが、科学政策、科学コミュニケーション、科学インタープリテーション、高等教育にも関わってきました。

    これらは訓練を受けておらず、オンザジョブトレーニング(OJT)ですので、こうした事柄に関しては皆さんのほうが私自身よりもプロかもしれませんが、お話いたします。

    現在、私はグローバルな持続可能性について、国連事務総長の科学諮問会議委員であり、またTWAS、つまり、途上国の科学振興のための世界科学アカデミーのフェローで、また、Molecular FrontiersのSABメンバーです。これはスウェーデン王立科学アカデミーがホストであるNPOによる分子科学の推進活動です。私は、また、UNESCOの日本国内委員会委員であり、宗像国際環境100人会議の共同理事長であり、宗像国際育成プログラム塾長でもあります。
    過去には、国際科学会議(ICSU)の副会長も務めました。これは121の国を代表するアカデミーと、IUPAC、IUPAB、IUPAPなどのような31の国際研究連合とからなる組織です。またヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム科学者会議副議長でした。首相直属の会議である、総合科学技術会議(現総合科学技術・イノベーション会議)のメンバー、内閣府男女共同参画推進連携会議議員で、文科省中央教育審議会委員でした。また、私は東京大学の科学技術インタープリター養成プログラムを設立しました。
    私が講演をするため、ここに呼ばれたのはこうした活動のためだと皆さんは思われるかもしれませんが、私は違う理由によるのではないかと感じています。それは私が自然の驚異が好きな人間だということです。私が気に入った事例をいくつかご紹介します。


    恥ずかしながら写真を入れましたのは、これらの画像はインターネットから取ったものではなくて、私が実際に訪れ強い印象を受けたことを示すためです。
    スイスのクランス・モンタナとノルウェイのソグネフィヨルド、それに米国のブレッケンリッジパークです。会議を行った場所です。学会が会議を開くのにずっと安い料金でできるオフシーズンだったので、スキーリフトが全て運転休止中で歩いて登りました。ブレッケンリッジのピーク8とピーク9に登りました。

    チャイニーズタイペイの美しい野柳ジオパークとここにあるクイーンズヘッドです。風とおそらく波による浸食のせいでクイーンズヘッドが落ちてしまう前に行かれることを強くお勧めします。
    また、ベトナムのハロン湾やオーストラリアのエアーズロックなど、好きな場所はたくさんあります。
    もちろん、日本にも美しい場所がたくさんあります。火山が多い国ですので、魅力的な景観や風景です。温泉も多いのですが、人間だけでなく、猿も、特にとても寒い冬には温泉に入りたがります。地熱発電です。この地熱発電は有望な再生可能エネルギー資源のひとつですが、観光産業との両立に問題があるかもしれません。
    昨年、何の予兆もなしに御嶽山が噴火したことを考えますと、噴火の危険性があります。わたしたちが見ましたのは美しい景色、印象的な景色や風景です。これは大昔、何百万年前の巨大な地球物理学的事象の結果であり、ジオパークの魅力のポイントのひとつです。こうしたことも考慮しなければなりません。
    2つ目の話題、地球が直面する緊急の課題へとつながります。
    皆さんももちろんご存じのことかと思います。エネルギー問題や水・食糧問題があり、人口増加がこうした問題に拍車をかけます。資源やエネルギー枯渇の問題、生物多様性の喪失、環境悪化、伝染病の流行、テロリズムの脅威などにも関連があります。

    私が、もうひとつの問題だと考えるのが世界中での高齢社会化です。2002年と比べ2050年に、特に一人っ子政策を実施していた中国ですが、本格的な高齢化社会を迎えます。しかし、私はこの統計データは好きではありません。60歳以上は老人というのは違うと思います。ここにおいでの皆さんの中にも60歳以上の方はたくさんいらっしゃるかもしれませんが、皆さん大変お若い。そう思いませんか?従ってこの統計値は70歳以上に変更しないといけないでしょう。それはともかく、10年後は、この統計値に同じことが当てはまるわけですから、われわれは世界中での高齢化社会に対する準備を真剣に始めなければなりません。日本は既にこの問題に直面しています。
    また、日本では東日本大震災が発生しており、津波が問題となっています。

    世界各地において、例えば、日本の近畿地方の豪雨、チャイニーズタイペイのMorakot/Kiko台風による深層崩壊、豪雨による洪水が表面化しています。一週間ほど前のことですが、鬼怒川の堤防決壊がありました。2010年のパキスタンの洪水、ロシアの熱波、Haiyan台風によるフィリピンでは時速140マイルという信じがたい風が発生しています。こうした自然現象に対して、われわれは真剣に考えねばなりませんが、長い年月の後に独特の風景をもたらすものもあれば、多くは美観を破壊するものです。


    喪失を伴う事象は世界中にあります。これは1980年から2014年にいたる保険会社による統計値です。小さい文字はお読みになれないかもしれませんが、下の赤い棒グラフは地球物理学的事象で、緑の棒グラフは気象事象で、その上の青味がかった灰色の棒グラフは水文学的事象で、最上部の棒グラフは気候学的事象です。私はこの分類にはあまり満足していませんが、ともかくもこれが標準的な方式です。
    地球物理学的事象(つまり地震、津波、火山噴火など)が増加していないことがご覧いただけると思います。これらの発生をとめることはできませんが、被害を軽減することはできます。わたしたちに何ができるでしょうか?それが新しい科学技術によるものなのです。

    例えば、日本は地震と津波の早期警戒のための素晴らしいシステムを国内で開発しました。誰でも知っていることですが、地震波には2種類あるのです。ひとつは「P」波で、もうひとつは「S」波です。P波はS波よりも速く伝わり、S波は地面や建物を揺らす波です。日本ではさまざまな地点に観測システムが配置されており、S波が来る前にP波を検知すれば警報を出すことができます。(緊急地震速報)東日本大震災の時は、27本の新幹線がこの地域内を全速力で走行中でしたが、全て安全に自動停止し脱線した列車は全くありませんでした。これはUrEDASシステムのおかげです。UrEDASは旧国鉄が開発したP波警戒システムなのです。
    また、地震のほぼ2-3分後に、マグニチュードの大きさ、津波の可能性、震源地がどこかを知ることができます。素晴らしいことだと思いますが、これは日本が開発したシステムであり、 われわれは科学と技術を津波や地震の被害を受けている他国と共有したいと願っています。言わば科学とテクノロジーの勝利なのだと思います。

    これは地震に限定されておらず、この特別なフォーキャスト(予報)ならぬ「ナウキャスト」は短時間予報、そして、災害予測地図作成のための重要な先端技術です。これはリモートセンシング、衛星によって行われ、上流で豪雨を検知できれば、数時間ないし数十分後に、たとえば、下流のメコン・デルタで洪水が発生するのは必至です。このシステムは、IFAS、リアルタイムの世界的規模の短時間予報、 ICHARM、CHRS(リモートセンシング)の国際協力によるものです。この新しい国際協力は災害の軽減に役立っています。この災害は単に自然由来のものだけでなく、人為的原因のものもあるかもしれません。
    自然災害については、地球物理学的なものの他に、気象に関するもの、水文学的なもの、気候学的事象等がありますが、これらは自然現象でしょうか?人類の活動の結果かもしれません。これらの事象に対して、国際的に取り組まねばなりません。原因を究明し、解決策を見つけるために多くの国際組織が協力しています。

    2015年は重要な年です。なぜでしょう?第4回アジア太平洋ジオパークネットワーク山陰海岸シンポジウムがここで開催されたこともひとつの理由かもしれません。しかし、もっと重要な理由があるのです。それは何でしょうか?
    持続可能な開発目標(SDGs)が9月ないし10月にニューヨークの国連総会で採択されるでしょう。また、COP21が12月にパリで開かれます。わたしたちに関係のないことと思われるかもしれませんが、わたしたちにとっては大変重要な事なのです。

    SDGsは2015年から2030年の、次の15年間にわれわれが何をすべきか、実際に決定します。
    1:貧困、2:飢餓、3:健康的な生活、4:教育、5:女性と少女;ジェンダー平等、6:水と公衆衛生、7:近代的なエネルギー、8:経済成長と雇用、9:持続可能な産業化とイノベーション、10:格差の是正。そして目標11、包括的、安全、レジリエンス、かつ持続可能な都市および居住区の実現、そして12:持続可能性のある消費と生産の確保。目標13は気候変動。14は海洋。15は森林砂漠化と生物多様性です。16は公正、公平性、17はグローバル・パートナーシップです。17個の目標と合計で169個のターゲットがあります。どうすれば達成することが可能なのか分かりませんが、これは採択される予定です。次は、何をすべきか、具体的目標が何なのか、政治の力が決定する時です。これは次の15年のことですが、皆さんの活動の全てはSDGsに何らかの関連があります。


    これは国連事務総長科学諮問委員会のメンバーです。世界中に26名おり、就任した際のベルリンでの会合です。とても背が高い人が仲間にいて、私は一段高いところに立っていますが、誰にも見えないと思います。SDGsについて議論しました。

    COP21を前にして、昨年7月に、パリで気候問題の「良心のサミット」という会議が開かれ、世界の宗教団体や賢人が一堂に会しました。なぜ私たちはこの星に関心を払うべきなのか?どうして私は関心を払うのか?私が関心を払っているということをどのように示せばよいのか?私はなにをなすべきか?世界に関心を払わせるためにはどうしたらよいか?といった5つのテーマで協議を行いました。会議には、前国連事務総長コフィ・アナン、アイルランド大統領、フランス共和国大統領、UNESCO事務局長のIrina Bokova、あるいはグラミン銀行に対してノーベル賞を受賞したMohammad Yunusのような著名人が大勢参加しました。あるいはグリーンピースの人々、アマゾン森林に居住する人々もいました。私もプログラムにはなかったのですが、突然壇上に呼ばれて、宗像市の中学校で行っている環境問題を考えるグローバルリーダー育成活動について話をしました。このパリ会合のような国際会合は、科学と社会の協力関係を推進するのに重要です。

    これから、ラクイラ地震の出来事から学びます。いくつか不幸な例を挙げますが、これらから教訓を学ばねばなりません。科学者、政策決定者、一般市民の皆さんにも聞いていただく必要があります。
    この経験から学びましょう。事実1、2009年にイタリアで発生したラクイラ地震はご存じの方もおられるかもしれません。ラクイラは頻繁に地震に悩まされる地域で、過去50年間にマグニチュード4.0から4.7の地震が13回ありましたが、ラクイラの地震活動は2009年1月に活発化しました。マグニチュードは3.5以下ですが、この地域では体で感じる地震が続いていました。

    真相はこうです。地震が続いている間、NIAの技術者のG. Giuliani氏がその地域で近い将来に発生する大地震の予知を発表したのですが、科学学術機関による裏付けがありませんでした。後に地震予測に関する国際委員会は、この予知は科学的根拠に欠けると発言しました。彼は以前2度警報を発しましたが、それは中りませんでした。地震を予知するのは非常に難しいのですが、一般市民の間に不安が広がったので、政府は何らかの対策をとるべきと判断したのです。国立地球物理学火山学研究所と国立地震センターは学界で、市民保護局が政府機関です。市民保護局が地震警報に応えて3月31日に会議を開きました。私は科学と社会の関係について学びたいと強く思っています。いつもは研究室で化学と生物学の実験をしているのですが、こうした経緯を丁寧に追ってみました。

    3月31日の会議の参加者ですが、左の欄は市民保護局の政府職員で、Bernardinis博士、彼は市民保護局の副長官です。また、災害軽減局の局長、市長、地域市民保護局長も出席しました。中央に載せてあるのは政府任命の科学者で、大災害委員会副委員長のDr.Barberi、それに、国立地球物理学火山学研究所長であり、政府に任命されて、このメンバーも務めていたDr.Boschi。右の欄には、国立地球物理学火山学研究所の国立地震センター長でBoschi博士に同行していた科学者のSelvaggi博士です。青字で書かれた人たちですが、彼らは過失致死罪で告発された人たちです。市長は告発されませんでした。

    会議では、大地震の確定的な予知は可能ではないこと、短期的には大規模な地震発生の可能性は低いこと、ラクイラは、イタリアの中で地震災害の確率が最も高い地域のひとつと結論づけられました。しかし、全会一致ではありませんでした。、予知不可能と言う人もいましたし、大地震の可能性は低いという人もいました。また、耐震性の建築基準を設定しなければならないと言う人もいました。それがより重要です。会議の後でDe Bernardinis博士とBarberi博士は記者会見を行いました。


    メンバーをもう一度ご覧ください。この二人が記者会見を開きました。オレンジ印の丸印は建築基準が重要だと発言した人です。水色の三角形の印の科学者は、地震予知は容易ではないと発言し、このX印の人は大地震の可能性は低いと発言しました。しかし、彼らは皆同じ罪で告発されたのです。

    実際に起きたことは、4月6日、マグニチュード6.3の地震が起き、309人の死者、1700人をこえる負傷者が出て、約20,000件の建物が破壊されるか、または深刻な被害を受けたのです。
    告発はニュースになりました。科学者たちが過失致死の罪で裁判にかけられたのです。2011年5月のことで、『ネイチャー』に掲載されました。記事の通りではなく、少し手を加えてありますが、2012年10月にラクイラ裁判所は判決を下しました。地震学者たちは過失致死罪で有罪になりました。本当にショッキングです。科学者6名と政府関係者1名に6年の禁錮刑、公職からの永久追放、刑執行中の法的禁止、犠牲者の家族に対する780万ユーロの金銭的補償が科せられました。過失が認められるのは「怠慢、不注意、未熟」に対してです。

    多くの記事が不正確な報道をしたのですが、イタリアの科学者グループが死者を出した地震の予知に失敗したことに対し、過失致死罪で告発されたというものでした。それは事実ではなかったのですが、多くのジャーナリストによって記事を書かれて広められ、学界の人々全てに衝撃を与えました。しかし、真相は、彼らが過失致死罪で告発されたのは、犯罪的な過失である安全宣言を住民に行ったことに対してでした。それが真相なのです。私たちは地震が予知できないことを知っているが、危機が無いといったのがいけないと被害者が告発したのです。事実はそういうことです。

    会議の後に開かれた記者会見で、委員会メンバーの1人である当時の市民保護局の技術部副部長が結論を述べました。「科学界は、エネルギーの放出が続いているので危険はないと言います。状況は好ましく思えます」。この声明は、ずっと後に発行された大災害委員会会議の議事録に出てきません。多くの地震学者が、これは科学的根拠がないと批判していました。ですから、これはたいへん政治的な声明なのです。
    この記者会見での声明は、科学的根拠を欠いており、議事録には出てきません。したがって、告発された地震学者はこの責任を問われる筋合いはないと言っています。しかし、裁判所は、他の委員会メンバーは誰もDe Bernardinis博士の記者会見での声明をすぐに訂正していないことが、彼らが等しく過失があることが検察の主張だと言いました。彼らは全員禁錮6年および780万ユーロの金銭補償等、全く同じ判決を受けています。会議の結論が安心させられる内容であったために、災害当日の夜、ラクイラの住民の一部は、群発地震が始まって以来、やっていた屋外避難をせず、家に留まったと検察は主張しました。下級裁判所の裁判官は、29名の犠牲者は委員会の安全宣言の直接の結果、行動を変えたおかげで死亡したと結論を下したのです。大変な話です。

    ほとんどの人々は、発生した事態に対する責任者を特定する、責任者~スケープゴートと言ってもいいでしょう~を見つける必要性を感じています。マスコミの世界はこの犯人捜しの欲求を助長するでしょう。しかし、責任を厳しく問う姿勢では、担当者に処罰される可能性に対する恐怖の感情を与えてしまいます。その結果、彼らにニアミスについての報告を控えさせてしまうことになり、組織としての学びを阻害することになります。また、将来、法律上の論争になることや、込み入った問題についての諮問会議に個人が関与する可能性を最小限にとどめようとする気持ちを生じさせます。科学者に「意見を述べてください」と依頼しても、過失致死の罪に問われる可能性があるとしたら、誰がそうした意思決定に関係したいと思うでしょう?特定の人を罰しても、危険な状態や同じ過失が発生する可能性は残り続けますし、今、話題となっている建築基準のこの問題は忘れられるかもしれません。おそらく、日本では建築基準が非常に厳格ですし、その管理もしっかりしていますから、マグニチュード6.3では、このような災害にはならないでしょう。しかしイタリア、特にこの地域では基準はそれほど厳しくありません。
    これはICRF報告書です。学ぶべき教訓は何か、何がなされなければならないかに関する7つの主要勧告です。1番目に、地震に対する最良の防御は健全な耐震建築基準に従う設計を行うことであり、危険な状態にある古い建物の改造をすること。2番目に、短期間に地震災害に対処するため、透明性があり、客観的な意思決定の手続きを確立する必要がある。3番目に、効果的かつ継続的なコミュニケーションが本質的に重要であること。これは皆さんにどうしてもお伝えしたかったポイントです。地震に限定されたことではないからです。
    4番目に、できれば、この難局が克服され、一般市民に地震災害および危険を低減できる行動について伝える取り組みが再開されればよい。5番目に、市民、メディア、意思決定者は、科学者が提供可能な類の科学情報、それに関係する不確実性、その限界について教育を受けて知っている必要がある。これも私が強調したいことでもありますし、私が東大大学院課程で科学技術インタープリター養成プログラムを始めた主な理由です。もし、何か事件が起こって、一般市民の科学に対するに信頼を失うと、取り戻すのはとても困難です。ですから、事件が起こる前に、科学と市民の間には、良い信頼関係を築く事が重要なのです。私はそう主張してきていたのですが、残念ながら、日本では原子力発電所の事故が起きてしまいましたし、今話したように、イタリア、ラクイラもそうです。6番目に、特に、地震学と同様、火山、津波、ハリケーン、洪水など多くの他分野でも、起こりそうにない自然現象であっても、常に発生の可能性はあることを全員が認識すべきです。7番目に、準備および回復力を強化することです。これは大変良い報告で、私自身もいくつか強調してきたことと重なります。
    2014年11月にラクイラ地震の科学者が上級裁判所で勝利しました。5年前、地震で破壊される前に、ラクイラ市民への犯罪的な過失である安全宣言を行った告発に対し、科学者6名と政府関係者1名の控訴が支持されたのです。6名の科学者は完全に無罪となり、被告人のBernardo De Bernardinisには関連罪について2年の判決が言い渡されました。しかし、法廷で判決を聞いた人々は、こんな判決は恥だと叫んだと伝えられています。これが市民感情です。
    これから何が起こるか分かりませんが、科学者としてひとつ私が感動的だと考えることはこれです。これについても、本当にお伝えしたかったのです。判決検討のため、退廷する前に、ラクイラ控訴裁判所の裁判官たちは地震学者の一人から感動的な最終答弁を聞いたのです。それは1人の純粋な科学者の答弁です。「地震国の地震学者にとって、現状の理解に資するために、いかなる形であれ、社会の役に立つよう身を処することより大切なことはありません。私は、そうした信念をもって2009年3月31日の会議に臨みましたし、今日でもまたそうするでしょう」と法廷で発言したのです。それは本当に感動的です。彼は保身をはかっているのではありません。彼こそが科学者なのです。彼は、地震は予知できないと発言しましたが、過失致死で6年の実刑判決を受け、ひどい目に遭いました。それでも、今日も信念は変わらないと言ったわけで、本当に感動的です。この答弁で判決が変わったのかどうかは分かりませんが、彼は実に素晴らしい科学者だと思います。
    科学と政策決定者の関係を一般論としてまとめてみましょう。今日、科学と技術は、国の繁栄と市民生活に対する影響力がますます増しています。これらは、今や経済成長の原動力として不可欠と考えられています。従って、科学者たちは、気候変動、サイバー・セキュリティ、世界的流行病、食品技術、再生医療、貧困などに関する政策形成に頻繁に関与することになります。
    現在、科学的助言はますます難しくなってきています。特に緊急の不確実なケースについてです。不確実なケースが多いので、科学者や科学は決定のための手段を提供し、政治家や政治は、それに従って最終決定するという役割分担の見方は単純化され過ぎているのです。もはや、2つの違ったセクターではなく、従って、誰が評価し、誰が決定し、誰が判断し、誰が結果に対し責任を持つか、これこそ我々が考えなければならないことです。
    明日の地球市民の育成についてのトピックに移ります。

    なぜこうした人々が必要なのでしょうか?
    まず、いわゆるリニアモデルについて紹介します。まず、学界が研究費を得て、純粋研究と応用研究に取り組み、それを政策やビジネス界が開発や応用に進めて、社会的利益に到達させる。これが旧来のモデルです。


    そして、スパイラル・モデルになります。しかし、われわれはこの新しいモデルに移行しつつあります。これがFuture EarthというICSU、UNESCO とISSCが行っているプロジェクトのスタイルです。共同生産、共同開発。開発段階から、ビジネス界の人々や広い社会層、一般市民が検討に加わるのです。入手できる知識と多くの利害関係者を一体化したいわけですが、現実は、言うは易く行うは難し、だと聞きました。
    生命科学、情報科学、ナノテクノロジー、材料科学は、大陸移動のように世界を大きく変えてしまいました。生命科学は進みすぎています。例えば、目を失っても映像を見ることができる脳深部刺激、しかし、悪い目的に使うこともできます。犬のクローン作成が行われたことを聞かれたかもしれません。

    ICTもあります。これらは、わたしたちの世界を変えつつあり、メリットだけでなくデメリットも、つまり、光と影を与え、社会と科学の間に軋轢を引き起こしています。科学に対する感動の欠如、生命への畏敬の喪失、失敗の原因につながり、科学に対する市民の低い関心、疑似科学のまん延など。だから私が言いたいのは科学者・技術者と社会の間のコミュニケーションが重要だということで、私がほぼ20年言い続けているように、科学リテラシーを持った一般市民と社会的リテラシーを持った科学者が必要とされているのです。
    また、科学創造立国のため、皆さんがイノベーションは必要と言っていますが、それには産学連携の強化が必要です。イノベーションをおこすためのグローバル拠点の設立、科学教育の向上、優秀な科学者やエンジニアの育成が必要です。私たちは、英語を教え始める時期、コンピュータープログラミングを教え始める時期について議論しています。でも、私が言いたいのは、nerd(専門バカ)をつくるなということです。「nerd」と言う言葉はお分かりですか?多分お分かりだと思います。科学と技術の発達によって、知性と倫理観を備えた科学者がますます必要とされています。研究の評価は主に、同業者によってなされてるので、研究論文の数が必要となってきます。競争環境の激化に伴って研究結果のねつ造の可能性も高くなります。そうしたことは、残念ながらいろいろな国で発生しています。従って、科学者は社会リテラシーを身につけるためにも、アウトリーチ活動を行う必要があります。知性と倫理は科学者にとって重要なのです。
    社会と科学のコミュニケーションは重要ですが、議論は科学とテクノロジーなしにできません。一般市民の皆さんにも研究の計画段階から参画していただきたいのですが、基礎科学を理解していなかったり、あるいはインターネットやSNS上の不適切な情報による感情的な先入観があったりすると、こうした人々は判断を誤る可能性があります。個人的なことに対しても、もっと重要な事項、例えば遺伝子組み換え生物、原子力発電、組織工学、先進医療技術、その他に対しても、決断をしなくてはいけないことがありますから、このことの重要性を増しています。

    私はこの方面で、いくつかの活動を行っています。一つ目は、実は11年目になるのですが、科学技術インタープリター養成課程という東大の大学院副専攻課程を開設しました。これは大学全体にまたがるものです(後で少しお話しします)。また、今3年目なのですが、宗像国際環境100人会議の共同理事長、併設している国際育成プログラムの塾長を務めています。私化学と生物学の実験を行っていますが、科学と社会の関係についても熱心に取り組んでいます。
    2005年に開設した科学技術インタープリター養成プログラムの紹介をしましょう。東京大学の先生方の協力と国の振興調整費での支援を受けて始めることができ、国の支援が終わった後は、東京大学教養学部の教養教育高度化機構の中に組み入れてもらいました。対象は自然科学と人文科学専攻を含む東京大学の大学院生でした。実は、私はこの大学を定年のために去らねばなりませんでしたので、ディレクターも退かなければなりませんでした。現在は、東京理科大学に勤務しています。現在、このプログラムは、大学院生に限らず、学部生にまで対象が広がり、発展しています。参加学生は、熟考を求められ、他の主専攻に所属する異なる経歴を持った受講生との議論に注力します。彼らは、自分の専門の基盤を持つべきだとの考えから、私はこのプログラムを本専攻プログラムとしては行わないと決めました。分子生物学、あるいは、哲学や化学の専攻かもしれませんが、自分の専攻科目を持たねばなりません。その上で、取らなければいけないコースですから、これはとても大変なプログラムですが、社会は重要な仕事、職業として科学インタープリターや科学コミュニケーターに居場所を与えるほど進んでいないと私は現在でも感じています。キーワードは何を伝えるか、どのように伝えるかです。

    通常、人々は科学コミュニケーションというと、いかに伝えるかを話題にします。科学者は専門用語を説明できずに何やらボソボソ喋るだけで、一般市民を退屈させてしまいます。それは全くその通りですが、それと同じくらいか、さらに重要なのは、何を伝えるかということです。弁舌は巧みでも内容が嘘であれば、一般の人たちに誤解を与えるかもしれません。私が感じるのは、何を伝えるのかと、どのように伝えるのかはともに重要だということで、カリキュラムはそのように分かれています。しかし、ほとんどのスタッフはどのように伝えるかを教えたいと言います。ですから、東京大学に普段は勤務していませんが、今でも何を伝えるかをテーマとした講義を担当しています。


    これは私が作ったこのプログラムのロゴマークです。お分かりでしょうか?これは東京大学のロゴマークで、それに変更を加えたのです。見えるでしょうか?見えないようですね。「S」が2つあります。Scienceとsocietyが近寄って調和する姿を描いてみたのです。それが私の夢なのです。
    東大の科学技術インタープリター養成プログラムは、さまざまな研究分野の科学者と一般人を結び付け、科学と実生活間の双方向コミュニケーションを確立し、一般市民からの学びを通じて、科学者の社会リテラシーを向上させるのが目的です。ですから、私たちは一般市民からも学ばなければなりません。インタープリターと科学者と一般市民は重なっており、学者のキャリアを継続するのであれば、一般の人への理解増進活動を行う事ができます。
    これが私の科学インタープリターの定義です。科学インタープリターとは、先端研究の結果およびその社会的意義を一般市民に対して説明できる専門家。社会的意義に関しては、科学者に対しても説明する必要があります。単なる専門用語の説明者ではありません。科学インタープリターは問題を特定し、将来の進展に関して方向性を示す人たちです。科学と生活のかけ橋となる人たちです。
    まず、科学インタープリターは科学全般に対する感動を伝えるべきです。これは、東京大学のコースに対して私が作った7つの必要な資質です。自然の驚異を感じられる人でなければなりません。私が自然の地質学的、地球物理学的素晴らしさに驚嘆したように。驚異はさまざまなものにあります。地球の約45億年の歴史、地球上の生命体の40億年の歴史、自然の素晴らしさなど。

    また、科学の本質と科学的思考を理解している人。科学的思考とはなんでしょうか?平均すると、これらの統計は全て平均50になります。しかし、この50には何の意味もありません。平均50でも全く違うものです。ですから、平均値という数字だけを見ていてはだめだと分かることが必要です。科学インタープリターはリスクを取る者、利益を得る者は誰か、確率はどれぐらいかということを考えねばなりません。科学はグレーゾーンを拡大します。生か死、世代間、食糧と医薬の間のグレーゾーンです。科学とテクノロジーが発達すると、グレーゾーンはさらに拡大します。また、物には3つの性質があります。変化しない物理的性質と化学的性質、しかし、社会的特徴は場所と時によって変わります。したがって、これが最善であると確実なことは言えないのです。これが「地球規模で考え、地域規模で行動する」ことなのです。これが精神です。また、定量的把握と、ないことの証明はできないことの理解なども大切です。次に、5番目に他者の気持ちを思いやる人が重要です。6番目は、表現スキルに長けた人です。これが、通常科学コミュニケーターの必須条件と考えられることですが、私にしてみるとこれは7つの条件のうちのひとつに過ぎません。また、7番目として、英語能力のある人です。東京大学の大学院課程なので、これも条件とすることにしました。コースの選抜試験にはTOEIC/TOEFLの結果を提出するように依頼しています。というのも誰かが誤訳をすれば、それはそうとは知らずに伝えてしまうことになるので、自らが知識を入手すること、また、自ら海外の人に英語で面談に行くといったことは本当に重要です。
    私の授業では討論をします。学生がテーマを選び、約90分討論をします。テーマは疑似科学とシミュレーション科学、または不確実性と合理性、または統計の解釈、科学と宗教、科学インタープリターの役割、リベラルアーツの科目としての科学研究です。

    あるいは彼らの専攻科目に近いトピックを選ぶこともあります。つまり、再生医療、高齢化社会とアルツハイマー病、ナノテクノロジーの医療への応用、遺伝子組み換え作物、科学と法律です。これは法学部研究科の学生の選んだテーマです。動物実験に関するさまざまな問題、なぜ人々は建築の歴史を研究するのか、脳科学と教育についてなど、非常にたくさんのテーマがあります。哲学専攻の学生による科学史におけるフランシス・ベーコンの評価。他にも興味深いテーマがたくさんあります。これは、私が今でも土曜日に3ないし4時間教えているコースです。ですから土曜日を時々犠牲にしています。
    また、彼らをさまざまな場所へ研修旅行に連れて行きました。遺伝子組み換え作物の圃場、福島の事故以前に核燃料再処理施設へ、国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所と漁業協同組合、JAXAのロケット発射場、エネルギー完全自給の梼原町、ビッグ・サイエンスのスーパーコンピューターや加速器、ATR(国際電気通信基礎技術研究所)、政府の地球環境技術の研究所であるRITE(地球環境産業技術研究機構)、iPS細胞研究所です。
    科学技術インタープリター以外のもう一つの活動は宗像国際環境100人会議です。宗像というところは、長い歴史を通じて、貿易や通信の中心であったので、この会議を行うことに決めました。ここは韓国や中国にたいへん近いところに位置します。私はこの会議の共同理事長です。昨年、「海の道は未来へのみち」というテーマを掲げました。それは、日本が海に囲まれており、また、ここがシルクロードやスパイス・ルートともに、海の道の終点であるからです。残念ながら、このあたりの海は汚染がひどくなっています。
    今年は、海洋、森林と人間の関係を調べるために「海と生きる」を掲げました。私たちは、大学生および中学生用の国際教育プログラムを実施しました。これらの若者を地球市民として動機付け、国際交流の機会を提供しました。年8回訪れて中学生を教え、明日の指導者を育んでいます。これが私の願っていることです。
    なぜ、私がこれを行っているかなのですが、科学と生活の橋渡しをするために、必要なことについて私が書いたものがあります。1996年6月30日付け朝日新聞の21世紀の提言に、科学インタープリターについて書かせていただきました。先ほど、スライドでお見せしたことがここに書かれています。機会がありましたら読んでみてください。
    これは、私が1996年に岩波書店発行の現代日本文化論13の中で書いた『社会の中の科学、科学にとっての社会』というタイトルの章です。朝日新聞の提言を読んだ方から執筆を依頼されて書きました。それは、1999年の世界科学会議における「ブダペスト宣言」より3年前のことです。ここで、平和のための科学、発展のための科学に、「社会の中の科学、社会のための科学」が科学の目的として、初めて付け加えられました。私のものと少し違いますが、哲学は同じです。
    また、私は『科学を育む』というタイトルの本を書きましたが、日本語ですので、日本人の方しか読んでいただくことはできません。私の考えおよび私の情熱も本書に書かれています。
    この会合のためには、地球物理学上の暦を書きたかったのですが、これは40億年前に始まる時間を1年間にした生物学の暦です。生命の誕生は1月1日、現在は12月31日です。産業革命が最終日の12月31日の11時59分59秒にあたることがご覧いただけると思います。このように、われわれは非常に小さな存在でしかないのです。


    これが私の時間と空間の軸の図です。横軸が時間で、右が未来で左が過去。通常、人々は原点の部分しか見ていません。縦軸が空間です。上の部分は自分、家族、職場、国家、世界、地球、宇宙とどんどん自分から離れていきます。下側は少し変わっています。というのも私は化学者、また生物学者ですので、器官、細胞、ポリマー、分子、原子、素粒子とどんどんミクロの世界になっていきます。ほとんどの人は、友人に言われたことや、夫にこんなことを言われたので不満だとか、今晩、何を食べようといったささいなこと、あるいは自分の人生や、せいぜい次世代のことしか考えません。つまり、時間空間軸の原点近くに関心が集中していますが、時空で遠く離れたことや、われわれの存在に影響を及ぼしている目に見えないものに、もっと思いをはせることは大切なことだと思うのです。
    これが私のメッセージです。ご清聴ありがとうございました。

    <基調講演Ⅲ 平成27年9月19日(土)会場:鳥取環境大学>

アジア太平洋地域のジオパークの質向上へ向けた取り組み
APGN: Challenges in Developing Quality Asia Pacific Geoparks


  • APGNコーディネーター
    イブラヒム・コモオ
    Ibrahim Komoo/APGN Coordinator

    ご紹介ありがとうございます。皆さん、私はアジア太平洋ジオパークについての話をします。特に良質の世界ジオパークをつくるという課題に関連した話をします。Patrick McKeever博士による最初の基調講演は、UNESCO世界ジオパークについて、そしてNickolas Zouros教授による2番目の基調講演は世界ジオパークについてのものです。これは、私の発表でも少しだけ触れますが、手短にいたします。私の発表の2番目の部分、つまりどうやってアジア太平洋地域に良質の世界ジオパークをつくるかの話を集中的にしたいと思います。
    アジア太平洋ジオパークネットワーク(APGN)は、2007年に設立され、2008年に世界ジオパークネットワーク(GGN)によってパートナーとして承認されました。わたしたちの役割は、新しいジオパークを設立することはもとより、ジオヘリテージの保全の戦略的推進を可能にする手段やネットワーキングの機会を提供することです。そのため、APGNはGGNのためにファシリテイターとしての役目を務めました。2008年から今日まで、世界ジオパークについて一定の進展を遂げたと思います。
    (地球の歴史に比べると)大変短いですが、歴史について少々。ジオパークは1999年の数年前に始まったのですが、1999年にUNESCOが世界的な運動の端緒となる構想を打ち出しました。この当時、欧州にはもちろん、少数のジオパーク間のネットワーキングのようなものがありました。2002年初頭に始められたものです。そして、ナショナル・ジオパークを支援する構想であるUNESCO世界ネットワークが2004年に始まりました。今、申しましたように、2007年にアジア太平洋ジオパークネットワークができ、興味深いことに2014年にGGNは世界ジオパークネットワーク協会(GGNA)へと変わりました。これはNickolas Zouros教授によって、詳細に論じられていますので、ここでは触れません。
    GGNAの役員メンバーを紹介しましょう。理事長はNickolas教授です。副理事が2人、私とLong教授です。会計がKristin Rangnes博士、書記がGuy Martini博士です。我々がGGNAを設立し、カナダの総会で承認された時、GGNAは66の世界ジオパークの加盟地域を受け入れました。しかし、今までに確認されていない3つを除くほぼ110の全てが加盟済みと聞きました。従って、GGNAの加盟地域として確認されていない3か所のジオパークも、UNESCO世界ジオパークになりたければ早期に承認されなければならないとNickolas教授に聞きました。


    以前と現在の状況について少し述べます。UNESCOの支援を受けたGGNが中核で、欧州のジオパークをつくるための自らの機構を持ち、自動的にGGNとなれる確立した欧州ジオパークネットワークがあるのに対して、ネットワーキングの地域組織としてのAPGNはGGNを支援していました。従って、GGNによって、承認済みの世界ジオパークはどれも自動的にAPGN加盟地域になり、アジア太平洋ジオパークになるはずでしたが、2014年以降の状況は違っています。GGNAは今、世界ジオパークの世話をする法人組織となりました。実体の世界ジオパークはUNESCOに属すか、UNESCO世界ジオパークです。GGNは、このUNESCO世界ジオパークの設立のみを目的として、UNESCOを支援することになり、GGNAのメンバーシップについて、われわれはグループメンバーシップを持つことになります。全てのUNESCO世界ジオパークはグループメンバーとなり、そしてGGNAがジオパークの専門家の個別メンバーを持ちます。「地域ネットワーク」が地域の支援組織となり、GGNAの活動、特にネットワーキングおよび地域における能力構築などの強化支援を行います。現在、強力な欧州ジオパークネットワーク(EGN)があり、APGNなど新しい地域ネットワークの誕生を見守っています。


    これをお目にかけたいと思います。というのもAPGNのメンバーシップ、つまりGGNのメンバーシップは、時間を通じてではなく、新規国を通じて発展するからです。それは次の事実を見ても分かります。2004年に世界ジオパークがスタートした時、中国には8地域の世界ジオパークがありました。2005年には4地域ありました。2006年には6地域で、その間に中国に次ぐ2番目の国、イランに最初のジオパークができました。そして、2007年にランカウイです。2008年にはカナウィンカです。2009年になって、ようやく日本に3地域のジオパークが誕生しました。2010年に済州島とベトナムのドンバンに1地域ずつジオパークが生まれました。2012年にはインドネシアに1つのジオパークができました。
    中国と日本以外の国を見てみましょう。それらの国は最初のジオパークができて、8年もしくは4年後にジオパークでなくなるか、または2番目のジオパークができるよう努力しています。しかし、中国と日本では世界ジオパークの継続的な増加が見られますので、優れたジオパークから学びたければ、中国や日本から学ばねばなりません。この2国は、新規ジオパーク認定までの取り組み方を知っていますが、まだ大いに改善の余地はあると思います。これが現在の状況で、2015年には、新たにいくつかの世界ジオパークが認定されるでしょう。


    ジオパークとは何かを示すために、この単純な略図を使用したいと思います。ジオパークは、単に持続可能な開発というだけではなく、地域の持続可能な開発、都市部から遠く離れた良い開発とは全く思えなかった地域の持続可能な開発のためのモデルです。ですから、ジオパークでは、開発、これは環境開発ですが、これの3つの重要な側面を強調します。ここでは、私は「遺産保全」「経済開発」「コミュニティ開発」という用語を使用します。遺産保全を考えるのであれば、地質遺産の保全だけでなく、ジオパーク内の生物学的遺産や文化遺産の保全も考えなければなりません。
    それだけではなく、後にジオパークの開発を行う時には、自然および文化遺産の統合保全の問題を検討しなければなりません。私たちにとって、これは多くの人々が経験していない領域です。生物学のために保全を行う人はいます。文化のために保全を行う人もいます。地質学のために保全を行う人もいますが、統合されたやり方では、これら3者を連結し、保全することが将来の課題です。
    遺産保全において、もう一つの重要なことは、「非破壊による遺産資源の持続可能な利用」です。従って、遺産があっても展示や保全のために放っておいたりして、経済的利得や社会的利益をもたらさないままになっていれば、あまり意味がないのです。
    この3つの要素について少し触れます。今、申し上げたように、ジオパークはジオヘリテージの保全からスタートしましたが、これは、新しい地球規模の運動なので、大変重要なものです。アジア太平洋地域には、ジオヘリテージ資源の保全を目的としてジオヘリテージ保全を行うメカニズムがない国が未だたくさんあります。「生物学的な多様性だけが自然なのではない」という事実について、一般の認識を改善するでしょう。我々は、生物多様性の基礎はジオダイバーシティだという真実を主張し続けています。それゆえ、ジオパークだからこそ、この仕事が可能なのです。我々は、統合された自然、生物、ジオの統合を促進し、最後に自然・文化遺産の統合保全についての新たなパラダイムを作りだすのです。ジオパークが成熟するにつれ、ジオパークの内部で、こうしたことが起こるのは確認できるでしょう。
    経済的側面では、貧しく、経済活動の生産性が低い地域の持続可能な開発を考えることが最重要となります。安定した都市部で、経済活動を促進するのは難しくありませんが、郊外や低生産地域でそれを行うのは容易な仕事ではありません。ジオパークはこの仕事を行う能力をはっきり示しています。非破壊的な方法による、地球資源または景観資源のどちらかの天然資源の利用。経済活動のための新しい革新的な資源の提供です。10年前には、我々はジオプロダクトやジオツーリズムなどいっさい聞いたことがありませんでしたが、今や、ジオツーリズムを話題にするのが流行となっています。現実は、ジオツーリズムの活動は未だ十分に行われてはいませんが、我々は、ジオツーリズムやその他の知識集約型経済の新しい持続可能な経済的生産物のことを話しています。
    社会福祉の観点から、ジオパークは、共同管理または協調統治を通じて、コミュニティへの権限移譲を示し始めていることがはっきりと分かります。また、地元のコミュニティが保全や経済発展に関与していることも分かります。経済発展への関わりは大きいですが、徐々に保全に対する関与もなされて来ていることも分かります。資源保全や環境保護に対する市民の意識も高くなってきていることが分かります。彼らは遺産を誇らしく感じているのです。これは地元の文化や伝統の評価も促しました。従って、最初は国民文化の話ししかしない我々が、世界ジオパークを持つことによって、地元文化もそれと同様に大切だと考えるようになるのです。
    アジア太平洋ジオパークに共通する特徴について少し述べたいと思います。状況を前へ進めるために、こうしたことは知っておかなければなりません。基本的に、アジア太平洋ジオパークは、保全の視点または観光の視点に基づいて始まりました。これが障害となるのです。保存の観点から、または観光の観点から始めようとすると、我々は保全を強化せねば、観光を強化せねばと考えるようになりますが、これはジオパークのひとつの側面に過ぎません。
    次に、通常われわれがジオパークを考えるとき、地域の地質学的意義を持つ独特の地質学的風景や地質学的遺跡のことを問題にします。これは確かに重要ですが先駆けなのです。ジオパークは、これが全てではありません。こうした特徴があれば、優れた世界ジオパークができるチャンスがありますが、傑出した世界遺産があっても、それ以外の側面がなければ、必ずしも優れたジオパークにはなりません。ジオパークは、レクリエーションのツーリズムにとっては人気の高い場所で、その目的のために使われてきました。登山や山歩きなどの場所にもなっています。アジア太平洋ジオパークでは、普通トップダウンで、それからようやくボトムアップになりますので、数年はトップダウンでその後、徐々にボトムアップになります。こうしたトップダウンからボトムアップへの変化は、時に優れた世界ジオパークができるにあたっては問題を招きます。
    ジオパークは、開発公社または地方自治体のどちらかが指揮しますので、90%の権限や責任を持つ機関が1つか2つあり、その他の関係者は支援者に過ぎないということが時々あります。しかし、アジア太平洋ジオパークは独自の文化や伝統を持つ特別なコミュニティを持つので、我々はアジア太平洋ジオパークの多くが特別なコミュニティの集合を持っていることを理解しています。また、アジア太平洋ジオパークのほとんどは田舎にあります。
    この10年ほど、地域を観察してきた限りでは、アジア太平洋ジオパークのネットワーキングにおける問題は、共通の目的を持つのが難しいということです。ジオパークはそれぞれ独自の目的を持っていますが、他のジオパークに、ネットワーキングについて相談しても、共通の目的を見つけられないのです。大変、有益な議論から始まって覚書の署名には至りますが、共通の目的を作り上げられないので、それ以上進めなくなるのです。このネットワーキングは、科学と運営について共有できるベストプラクティスがある時にも重要です。リーダーシップまたは擁護者も重要です。管理者はいても、それはリーダーないし擁護者ではないという多くのアジア太平洋ジオパークがあります。そうした管理者は、ジオパーク間のネットワーキングの管理より自分のジオパークの管理に忙しいのです。我々は、地球規模のプログラムを一つ持つべきで、地球規模のプログラムやプロジェクトがたくさんあればいいのではありません。APGN加盟国間に経済格差がありますが、支援できる国もあれば、できない国もあります。様々な国の言語が存在することによるコミュニケーションの壁、ジオヘリテージ保全活動についても、優れた活動を行っている国もあれば、保全に対する法的根拠がない国もあります。ガバナンス・システムも部門によって違い、共同管理がされておらず、これらもネットワーキングに対するいくつかの課題です。


    次に開発における問題。ジオパークという考え方は、好むと好まざるとにかかわらず新しい考え方です。持続可能な開発という考え方は、比較的新しいので、利害関係者の多くはジオパークの理念を理解していないのが実情です。保全が目的であれ、ツーリズムが目的であれ、一つの理念にすぎないと受け止める人もいます。これは、我々が通常ジオパークに対してつくり上げている理念なのですが、真の理念は地域の持続可能な開発、バランスを取る行為なのです。
    中国は別にして、多くの国々はジオヘリテージに対する機構を持っていません。日本についてはよく分かりませんが、おそらく、渡辺真人APGN諮問委員が地質遺産の保全についての法律の有無を教えてくれるでしょう。もちろん、マレーシアにもありませんが、たくさんの方法や手段を使って、遺産を国による保全対象にしています。実は今年、発表いたしますが、地質遺産7件が国家遺産と認定され、これらの全てが域外保全で1つか2つが域内保全です。
    統治制度は新しい構想を支援するのが比較的弱く、特に複数の利害関係者が参加に関わる時にはそうです。部門別に対応できる案件の時はとてもよいのですが、2つの機関と合意するような話になると比較的弱いのが普通です。コミュニティは保全に対する関与度が低く、権限も普通持っていませんので、公務員または省庁のみが、保全または何らかの開発に対して、事業を行う全ての権限が与えられています。
    アジア太平洋ジオパークにおける共同管理の活動をいかに強化するか?我々は権限を超えたリーダーシップを持つ必要があります。つまり、管理者は自分の権限を行使するにとどまらず、リーダーになることを考えるべきです。自分の影響力を行使しなければなりません。ですから権限と影響力は共同管理にとってたいへん重要です。
    複数の官庁による支援。機関が多いので、1機関に仕事を委ねると、それ以外の機関は会議でも坐っているだけであまり発言しません。1つの官庁がほとんどの仕事をしますが、チームとして、その他全ての官庁が主管官庁に協力してもらうことが必要です。よって、他の官庁は主管官庁を支援するべきです。

    民間やコミュニティへの権限付与も課題で、アジア太平洋ジオパークにおいては、さらに強化することが必要です。民間についてはそれほど悪いとは思いませんが、コミュニティへの権限付与は依然として強化が必要な大きな課題です。
    委員会に基づく承諾。我々は話し合いを持ち、何かを行うための合意を取り決め、実行します。アジア太平洋地域では普通、承諾が最高権力者から与えられなければなりませんが、承諾、つまり、我々がこれをやってもよいかどうかは法律により決められなくてはなりません。我々は、トップマネジメントが「イエス」、またそのようなことを言うのを待たなければなりません。
    強化が必要なもう1つの事柄は、統合プロジェクトを通じた実行です。1種類だけのプロジェクト、1部門のプロジェクトではなく、社会発展のプロジェクトをどうやってつくり上げるか、たとえば洪水緩和とレクリエーション活動を統合プロジェクトとして、一緒に行うというようなことを考えねばなりません。
    アジア太平洋ジオパークの質を向上させるために、強化する必要があると思うことがいくつかあります。より良い対策が行えるように研究開発がもっと必要です。革新的で創造的なことができるように、我々にはずっと多くの健全な科学情報が必要です。これまで研究開発はそれほど取り組まれてきませんでした。持てるものを使用してみて、できれば持続してほしいと考えるだけですが、ジオパークは研究開発による裏付けがなければなりません。国家的および国際的な重要性を持つ我々のジオサイトのマッピング、特性評価を続け、地質学的保存の計画や保護措置を作成し、レクリエーション施設や公教育用施設を設置し、保全や開発を管理しなければならないのです。一度、ジオサイトを持つと、このようなものをろくに持たずに、すぐ開発をしたくなるので、ジオサイトを一つ一つ見てみると、特徴を1つ、2つ、3つぐらい欠けていることがはっきり分かるでしょう。だから強化が必要なのです。
    ジオツーリズム活動の観点からですが、ツーリズム活動を本格的に多様化しなければなりません。そのため、マスツーリズムとオルターナティブツーリズムに目を向けなければなりません。ジオツーリズムのためのジオプロダクトとして、もっと、ジオサイトや違ったタイプのツーリズム活動に目を向けなければなりません。ツーリズムに適した施設を開発しなければなりません。場所がない場合もあります。ジオパークには十分な施設がないところもあり、施設の不十分さが原因で、混雑しているように見える所もあるのです。ジオツーリズムのためのジオトレイルを開発しなければなりません。それは、ある場所から違う場所へという問題にとどまりません。しっかり計画をたてなければなりません。中国では、この開発が大変うまくいっていることが分かりますし、日本でもそうです。しかし、アジア太平洋地域の他の場所では、ジオトレイルの開発はまだ不足しており、強化が必要です。環境容量と持続可能性は重要です。これらのジオサイトにはたいてい環境容量はあります。それを超えると資源を破壊してしまいます。持続可能性の問題とは、どれぐらいの期間使用したいのか、どのように保護したいのか、どのように保全したいのか、といったことです。環境悪化の観測が必要ですし、世界ジオパークのいくつかは優れたレンジャーやジオガイドを必要としています。われわれには非常にたくさんのジオサイトがありますが、行ってみても、そのジオサイトにどんな価値があるのか観光客に説明できる人は誰もいません。これらが良質なジオツーリズム活動のために強化が必要なことです。


    しかし、私が最も重要だと思うのは、APGNは国家間および地域間のネットワークを強化しなければならないということです。これをわれわれは成功事例や課題を共有することから始めなければなりません。特定のジオパーク内の利害関係者または共同経営者間のネットワーキング、国家レベルのネットワーキング、同国内の世界ジオパーク間のネットワーキングまたは国内の世界ジオパークと国レベルのジオパーク間のネットワーキングが強化されねばなりません。それらが状況を前進させ、例えばAPGNシンポジウムを通じたアジア太平洋ジオパーク間のネットワーキングへ移ります。これがネットワーキングの最上層であり、第1層、第2層、第3層が重要です。最終層は、共通の目標または共通の使命を持てるようになれば、同じようなテーマについて検討することもできるでしょうし、最後に世界ジオパーク間のネットワーキングへと至ります。従って、私がみるところの弱点は、彼らは世界規模でのネットワーキングにしか関与しない(他のタイプのネットワーキングに関与しない)か、国家間のネットワーキングにしか関わらず、地域間あるいは世界規模のネットワーキングに関わらないことです。優れた世界ジオパークのためには、世界の舞台にいたるジオパーク内のあらゆる水準でのネットワーキングが大変、重要です。
    我々が、ジオパークの向上を望むなら、持続可能な開発の精神を根付かせなければなりません。世界ジオパークを実証または再実証する経験の間、我々は持続可能な開発の精神を時に忘れていたことを私は理解しています。持続可能な開発は常に我々の頭のどこかにあるのです。保全、ジオサイトの保護についての考え方がこれです。保全の統合にも関係します。環境保護、破壊なき資源利用、農村地域の経済開発、社会とコミュニティの発展、革新的な運営もテーマとします。これらのうち、1つではなく、全てが持続可能な開発のネットワーキングの本質なのです。時に、我々は1、2の側面のみに注目し過ぎて、持続可能な開発を達成できないことがあります。持続可能な開発とは、経済を考える時に、社会福祉と環境を別々にではなく、一緒に考えねばならないということを意味します。
    我々には、多くの強みとチャンスがあるのですから、APGNにも強みとチャンスがあるわけです。アジア太平洋ジオパークのほとんどは、科学的または美的観点、特に美的観点から傑出したジオヘリテージ、またはジオヘリテージの価値があるとはっきり申し上げることができます。中国や日本に行くとそうですが、美しい光景に驚かされます。この光景のほんの一部でもマレーシアにあればよいのにと思います。おそらく、私はマレーシアでたくさんの風景を見ているので、普通のことに思えるのだと思いますが、日本や中国に来ますと、日本には火山景観が普通に存在したり、中国には美しい岩石層に富んでいたり、神は他の国ではなしに、中国と日本のみを寵愛なさったように思えるのです。抜きんでた素晴らしさです。これこそ我々が持つ強みであり、あとはこれをどう利用するかです。
    我々には指導力と経済力があります。アジア太平洋ジオパークの多くは指導力があります。というのも指導力はジオパークの管理者だけの問題ではなく、首相にいたるジオパークの上層部の問題だからです。従って、いくつかの国(中国とインドネシアと聞きましたが)では、時に大統領や国のトップの政治家の支援が、たいへん大きく、彼らは支援に前向きです。しかし、そうした支援を提供するかどうかは、我々次第なのです。
    我々には傑出した自然ツーリズムの目的地があります。また多様な文化や伝統もあります。これはジオパークにとって、とても大切なことで、我々は発展するかつてなく大きな好機を迎えています。従って、「発展」という言葉は、保全とツーリズム両方に対する施設を強化することを意味しています。
    先進国の中には開発スペースが限定されているところがあります。そういった国は持てるものでやりくりしなければなりません。それらの国の地域は99%が開発済みなので、持てるもので間に合わすだけなのですが、アジア太平洋ジオパークにとっては、地域の5%しか開発が済んでいないので、われわれが進めている持続可能な開発の方法で95%を開発できるわけで、つまり改善の余地が大きいわけです。


    成功談の例をいくつか話します。例えば、ランカウイでは、ジオサイトやジオツーリズムの開発にあたっては、当局のLADAと国立大学のUKMとの関係が大変重要になっています。ジオサイトの理解が深まり、ジオツーリズム活動が改善していることが分かります。キリムでは、おそらくマレーシアでは初めて、政府が漁業協同組合に、ツーリズム活動を運営する権限を与えることに前向きな姿勢を示しているのです。通常、われわれは国際的なものであれ1国のものであれ、大型の民間セクターにジオツーリズムの運営を任せます。小規模の参加者は小規模な支援を行うに留まっていますが、ここでは協同組合がこの仕事をやれるかどうか試しているのです。
    今や民間の貢献が主導権を握っています。ランカウイでは多くの4つ星や5つ星のホテルに行くことができます。彼らは自前のジオパーク発見センターを持っており、観光客に誇らしげに紹介しています。実際、こうした活動によりランカウイの自然ツーリズムも盛んになるでしょう。最近、ランカウイジオパークの友(FLAG)というNGOの設立により、当局がどのようにランカウイジオパークを管理し、さらに発展させるかという点に関心が寄せられ、抑制と均衡も生まれています。
    中国の多くの地域は、世界ジオパークを目指している地域があります。例えば、私が最近訪れたところでは雁蕩山や織金洞です。ジオトレイルやジオツーリズムの活動はほぼ完ぺきだと分かります。なぜならば、彼らはお金をかけて、ジオトレイルやジオツーリズム活動を創出するすぐれた方法を考えています。大変素晴らしい公教育施設があります。博物館は大分改善しました。当初は、博物館は工芸品が展示されている場所にすぎませんが、現在では、中国の世界ジオパークの多くは、地域に関する物語、国家に関する物語、世界ジオパークに関する物語を示す博物館の中にいろいろな物語を持っています。ミャオ族やイ族といった民族も積極的に参加していることが分かり、これは世界ジオパークの成功例のひとつでしょう。


    少し前に、洞爺湖有珠山ジオパークを訪問しましたが、おそらく、現在はさらに状態が良くなっていると思います。火山災害に対する教育プログラムは素晴らしい。地質学的事象と人々との関係は驚くべきものです。これは、我々の世界ジオパークにおける地質学上の物語と人々をつなぐ問題の一つであります。もちろん、火山災害は密接な関わりがありますが、多くの地質学上の物語は、人々あるいは生物多様性のどちらかと関連付けられます。この関連が洞爺湖有珠山ジオパークには明確に見られるのです。地質災害事象の保全維持は、大変、優れています。災害は、将来、いつ来るか分からないことを人々に警告することを目的としています。 管理者も言及する価値があると思いました。洞爺湖有珠山ジオパークには4つの市域があり、市長が4人います。そのうちの1人の市長が、ジオパークは本当に歴史を作ったと語ってくれました。初めて、1つの山を共同管理する4市長が協力し、うち1人の市長を共同委員会のリーダーに任命しているのです。
    最後に、いくつかのことについて触れたいと思います。例えば、ジオパークはジオヘリテージを保全する手段です。地質遺産の保全は、大きな活動となりましたが、主にジオパークと関連付けられていました。ジオパークは、地域の持続可能な開発の活動のモデルですので、ジオパークを設立したければ、我々の最初の使命は、地域の持続可能な開発の活動を創り出すことであるべきで、観光客数の増加やその他のことではありません。地域の持続可能な開発が本質的テーマです。
    APGNは地域ネットワーキングのための戦略的組織ですので、我々もこうしてお手伝いに来ているわけです。アジア太平洋ジオパークが共同管理を強化することが大変重要だと思います。現在、アジア太平洋ジオパークにとって、最も弱いつながりは共同責任を負う委員会による管理だと思います。ジオサイトやツーリズムの質を向上させる必要があると今もって感じます。良いものもありますが、多くはいまだ誇れる水準にありません。能力構築のため、アジア太平洋ジオパークワークショップをもっと行わねばなりません。
    アジア太平洋ジオパークのさらなる強化に対する私の考えをいくつかお伝えできていれば幸いです。それとともにご清聴いただき皆様に感謝いたします。ありがとうございました。

    <基調講演Ⅳ 平成27年9月19日(土)会場:鳥取環境大学>

日本ジオパークネットワークと日本ジオパーク委員会
Introduction of the Japanese Geoparks Network and the Japan Geopark Committee


  • アジア太平洋ジオパークネットワーク諮問委員/日本ジオパークネットワーク事務局長
    渡辺 真人/齊藤 清一
    Mahito Watanabe & Seiichi Saito
    /APGN Advisory Committee & Chief of Japanese Geoparks Network

    渡辺:本日、齊藤清一氏と私は、日本ジオパークネットワークと日本ジオパーク委員会の活動について、紹介します。日本ジオパーク委員会の活動に関しては、既に世界ジオパークネットワークの会議とAPGNの会議で何度か発表しておりますので、私の発表に飽きている方もいらっしゃると思いますから、今日の主なトピックとして、どのように日本ジオパークネットワークが運営されているか、また、日本ジオパーク委員会がどのようにネットワーク活動を支援しているかを話します。齊藤さんは2009年から日本ジオパークネットワークの事務局長を務めています。2人で協力して日本ジオパークの活動を推進してまいりました。
    実は、齊藤さんは英語での発表も可能で、カナダでも発表されていますが、英語で話されますとその素晴らしい人格と熱意が弱まってしまいますので、日本語で話すことにしました。私どもはどのようなことを、どういった人がどのように活動しているかを紹介したいと思っておりますので、今回は日本語で話します。それでは、日本語に切り替えます。

    齊藤:紹介いただきまして、誠にありがとうございます。日本ジオパークネットワークの齊藤です。

    渡辺:今年の3月までは、日本ジオパーク委員会の事務局におりましたが、現在は日本ジオパークネットワークのアドバイザーを務めています渡辺です。

    齊藤:日本では、国内版のジオパークが誕生した2008年12月から、わずか7年余りで多くのジオパーク活動に取り組む地域が、急速に拡大してきています。現在、世界ジオパークが7地域、日本ジオパークが32地域あります。また、日本ジオパークを目指す地域が15以上となっています。


    渡辺:ジオパークの品質に問題があるのではないかというこの地図を見て感じる方々もいるかもしれません。ジオパークの品質を高める努力についての話については後ほど説明をします。

    齊藤:この急激な拡大の原動力となっているのが、日本ジオパークネットワーク(JGN)と日本ジオパーク委員会(JGC)です。
    まず、日本でなぜ、ジオパークが広く受け入れられてきたか、その背景についてご説明します。日本はかつて、飛躍的な経済発展をしてきました。しかし、その後、経済の長期にわたる停滞、少子化による人口減少と超高齢化社会の到来によって、大きな社会問題が発生しています。これは、特に地方において深刻な問題で、持続可能な地域の経済発展は、地方自治体にとっては大きな課題となっています。地方自治体が、ジオパークは持続可能な地域発展を目指すツールにもなるのだということを認識し始めたことが、急速に広がった直接の原因だと考えています。このような背景から、日本においては、ジオパーク活動に対する地方自治体の関わりが非常に強くなっています。

    渡辺:次に、私のような科学者の目から見た、ジオパークが日本で広く受け入れられた背景、たくさんの科学者が参加したかの背景について、話をさせてもらいます。先ほど、黒田先生のご講演にあったように、私たちは自然災害の多い島に住んでいます。しかし、日本列島がどういう場所か、地球がどういう星なのかといったことについて、社会の認識はありません。黒田先生の話にもあったように、日本では災害に対する優れたシステムが開発され、人の命を守るようになっています。しかし、そのシステムを使って、逃げたり、避難したり、自分の家を丈夫にしたりすることは、個人の判断になります。この個人の判断を正しくするためには、地球がどんな星か、日本列島がどんなところかという知識が必要です。最近、2011年の東日本大震災以降、地学を学ぶ人が増えてきていますが、高校での地学を学ぶ生徒の履修率は10%以下でした。そのような状況の中で、私たち科学者、特に、地球科学者は、社会教育の新たなツールを求めていました。社会で地球科学を活用してもらったり、地球科学をもっと知ってもらうために、この組織を提案したのです。
    日本ジオパークネットワーク(JGN)には、多くのジオパークの運営者である自治体関係者とジオパークのために働く科学者が運営してきました。日本ジオパーク委員会(JGC)の方は、学会の科学者を中心に構成されています。この2つの組織のうち、最初にJGCが2008年に設立され、JGNが2009年に設立されました。

    齊藤:この2つの異なる組織は、科学者と地方自治体関係者の協力関係が、年を追うごとに深まっていき、日本のジオパーク活動が活発になった理由の一つだと思っています。
    私がJGNの事務局の仕事をするまで、科学者というのは非常に遠い存在でした。しかし、今は信頼関係のもとで、一つの目標に向かって活動する、私の仲間になっていると認識しています。

    渡辺:先ほど、黒田先生がおっしゃった科学者に対する社会のリテラシーについての話題がありました。私は齊藤さんと議論する中で、普通の研究者から、少しは社会リテラシーを身に付けた研究者となりました。ですから、彼は私の先生なのです。
    これまでの歴史を振り返ってみます。日本地質学会が、2005年にジオパーク設立推進委員会を発足しました。これが日本におけるジオパーク推進活動の始まりです。そのとき、私はこの委員会の事務局にいました。その後、日本地質学会を含む5つの学会が産業技術総合研究所と一緒に、2008年に日本ジオパーク委員会を設立しました。
    多くの優秀な研究者を中心とした委員会のメンバーは、政治的な思惑や中央省庁の考えとは異なり、ジオパークの理念に基づいた独立した立場でジオパークを評価しています。
    この委員会に参加する科学者は、もちろん、中央省庁や政治家ともつながりがあるような人たちですが、その判断は、自分の考えとジオパークの理念に基づき、評価することができるメンバーであり、この委員会の大事なところであります。

    齊藤:この委員会が、地域のジオパーク活動を第三者的な視点で評価をしてくれる、このことは自治体の政策に対する有効性、信頼性にとって、非常に大きな役割を担っていただいています。


    このスライドは、現在のJGNの組織図のイメージとなっています。これまでも、活動のレベルにあわせて、柔軟に組織体制を変更しながら運営をしてきています。JGNのメンバーは、現在、世界ジオパークと日本ジオパークの39地域が正会員であり、また、ジオパークを目指す15地域が準会員となっています。合計54地域でJGNを構成しています。
    各地域の代表者は、JGNの運営に対して、議決権を有しており、最高意思決定機関である総会に参加し、運営に直接関与します。通常の業務執行は、理事会に委任されており、通常総会への参加をもって、JGNの運営に直接関わり、専門的な検討は、運営会議とワーキンググループによって進められます。ここは後ほど詳しく説明します。JGNに対して、JGCは、認定審査や学術的な支援を行います。

    渡辺:JGC委員も、JGNの理事会や総会に、必要に応じて出席し、必要な助言を行っています。

    齊藤:また、日本ユネスコ国内委員会や関係省庁とは良好な協力関係を結んでいます。ただし、現在、各省庁からの財政的支援は一切受けていません。
    運営に必要な経費は、会員地域の年会費とジオパーク活動に賛同する民間事業者や、個人からの寄付によって、まかなわれています。今後、ユネスコ世界ジオパークの正式決定後、国内の状況が変われば、また、審査体制を含めて、柔軟に変更していく必要があると思います。
    次に、組織運営の中心となる理事会と運営会議について詳しく話をします。理事会は、組織運営に関する多くの権限を持つ中心的部門です。理事会は、12名の理事と、2名の監事で構成されます。これらの役員は、各会員地域のブロックごとに推薦され、通常総会で選任されることになります。日本の特徴として、ジオパーク活動に対する地方自治体の関わりが、非常に強くなります。
    したがって、役員には、行政の長が多く選任されてきました。このことは、予算的にも人的にも、速やかに意思決定ができるというメリットがありました。そして、JGNの運営は、この理事会主導型で進めてきました。これにより、始まったばかりのジオパーク活動であっても、社会的、対外的組織として、信用される体制や仕組みづくりが容易となりました。日本におけるジオパーク活動の導入と急激な拡大に対応しなければならない黎明期においては、私は、この手法の選択がベストであったと考えています。
    一方で、地域で実際に活動を進める上で、情報共有や、地域間での共同で行う具体的な活動については、研究者や自治体職員、ジオパークガイドなどの実践者が運営の主体となる必要があります。
    このため、各地域から推薦を受けたものをメンバーとする運営会議を設置します。ネットワークの本質は、共通の目的のために、緩やかにつながること、仲間になることだと私は認識しています。
    そして、特定のリーダーが決まっているのではなくて、誰もが役割を持ち、リーダーにも協力者にもなります。また、固定されるのではなくて、目的や課題によって、柔軟に形を変えるものです。このネットワークの考えにより、運営会議の下では、ワーキンググループが自由に活動しています。

    渡辺:このワーキンググループには、JGC委員会の委員もメンバーとして参加したり、リーダーになったりします。そして、研究者、地域の人、ジオパークの運営者、様々な人が、一つの興味で、メーリングリストで議論をして、集まって、ジオパークをよりよいものにしていこうということを行っています。

    齊藤:保全や、教育、ガイド、国際対応などについて、また、ジオパークジャーナルやマネージメントなどについても、参加者同士のコミュニケーションを大切にしながら進められています。
    ワーキンググループにおいては、グループリーダーの判断により、テーマや目的の設定、メンバーの適否の決定、さらにはグループの解散などについても可能です。また、賛同者が1名いれば、直ちに設置することができて、検討結果をオーソライズする必要があれば、運営会議に報告します。グループリーダーの権限は非常に強くて、その一方で義務に関しては、検討結果の報告のみになっています。したがって、誰もが自由に参加し、賛同者を募って、ワーキンググループを始めることができます。
    運営会議のメンバーは、通常メーリングリストなどで、情報の交換を行っていますが、年に2回定期的に集まって、議論を行っています。


    渡辺:アジアには、年長者を尊敬するという非常に美しい伝統があります。美しい伝統は世の中の秩序を安定させるといった役割があります。それは社会にとって非常に良いことなのですが、時に、自由な議論を妨げます。年をとった人の意見が、あまり議論をされないまま、全体の結論になってしまったりといったことが習慣になって、弊害を発生させたりしています。ワーキンググループでは、この習慣を忘れることにして、参加者が平等な関係で、フラットな関係で議論しています。この会場にいらっしゃる世界的に有名な中田先生であっても、みんなと一緒に当たり前のように、議論をしています。中田先生の意見であってもすぐに否定されるといった自由な関係を築いています。

    齊藤:このように、JGNでは、行政的で強固な組織と、誰もが参加しやすい緩やかなネットワークの双方を組織内に備えて、柔軟な活動を可能としています。

    渡辺:日本だけでなく、アジアの国でも同じようなことがあるのだと思うのですが、例えば、市長などの社会的に地位がある人が、組織を運営しているという形を示さないと日本の社会では信用されない。一方で、活動の中身を良いものにするためには、ボトムアップの動きがなければ、絶対に良いものにならない。日本ジオパークネットワークは、両方を備えるように運営を行ってきたのだと私は思っています。


    齊藤:次に、JGNの主な活動をいくつか紹介したいと思います。毎年、開催する全国大会では、多くの人々が、一つのジオパークに集まって、テーマに沿って、それぞれの活動内容や、成果を発表しています。今年で6回目になりますが、昨年の全国大会には、ジオパークガイドや学生、地元住民も含めて、4日間で述べ7,000人が参加しました。また、全国研修会では、各地域の事務局担当者を中心に約100名が集まり、ジオパークの品質向上のための手法について研究しています。今年は、既に2回、全国研修会を開催しましたが、第3回目を来年1月に開催する予定です。この時に、ユネスコ世界ジオパークの昇格記念フォーラムを同時開催しようと準備しています。

    渡辺:私たちは、ジオパークの評価に関する研修会も行っています。日本国内でのジオパークの現地審査は、JGC委員2人と、各ジオパークの現場で経験を積んだ1人、併せて、3人で行っています。日本ジオパーク委員会の委員と各ジオパークから選出された審査委員の候補となる方を集めて、年に1回、ジオパークをどう評価するのかといった研修会を行っています。この研修会を行うことにより、審査の中身が向上する、ジオパークの理念を多くのジオパークで共有できるという効果があります。JGNをベースとした研修会と、JGCの活動の協力により、日本ジオパーク委員会の評価方法は年々改善されていると私は信じています。


    齊藤:次に広告宣伝について話をします。テレビ、新聞、インターネット等、私たちの周りには多くの情報が溢れています。その中で、ジオパークに関する情報を、どう提供するかは、とても重要な課題です。JGN自らが発信することはもちろん重要ですが、同じ情報がJGNではなく、第三者から発信されると、受け手にとっては、より信頼性が高く感じられることになります。そこで、JGNでは、各地域の協力の下、様々な画像を取りまとめ、利用や配布についての権限を確保して、様々なメディアの取材に備えています。これにより、テレビ局や新聞社への取材に対し、素材提供が可能となっています。また、有償の書籍制作があり、JGNがコンテンツを取りまとめ、手数料を得ることもあります。このように、テレビ局や新聞社等との連携も、ジオパークの周知活動には大変有効です。今後もJGNは、ネットワークの力を最大限に活用した活動を行っていきます。

    渡辺:最後に、私たちが運営に関わってきたJGC,JGNの行ってきた活動の成果について、お話しします。もちろん、ジオパークの理念が、急速に日本の国内に広まって、多くの国内ジオパークができたことは大きな成果の一つです。そして、ここまで述べたJGNのネットワーク活動とJGCのサポートによって、日本のジオパークの質が年々向上しています。もちろん、世界的な地質遺産がないと、世界ジオパークにはなれません。そうした世界的な地質遺産を持たないが故に、世界ジオパークにはなれないけれども、国内ジオパークとして、非常に質の高いジオパークの活動を行っている地域も年々出てきています。また、質の低いジオパークについては、委員会が助言をすることによって、品質を改善することになっていますし、国内ジオパークについても再認定審査を行っています。そして、イエローカードを出したケースもあります。今後、活動の不十分な地域が出て、日本ジオパークから出ていかなくてはならない地域もあると私は考えています。


    齊藤:これまで述べたJGNと、各地域の様々な活動により、新聞や雑誌、テレビなどでの情報発信の機会が増えました。JGNの行った2014年度のインターネット調査によれば、ジオパークの認知度は37.1%となりました。JGNでは、11月に予定されているユネスコ世界ジオパークへの昇格を、更なる認知度を向上となるチャンスと捉え、今後、情報発信を強めるつもりです。


    JGNの活動の成果として、最も重要なことは、科学者同士、或いは、自治体関係者同士のみによる単層のネットワークに留まらず、ジオパークガイドや教育関係者等が、それぞれ、つながりを深め、新たなネットワークを構築し、幾重にも重なる多層的なネットワークが出来上がったことだと思います。今回のAPGNシンポジウムの開催前日には、山陰海岸ジオパークで日本ジオパークネットワークガイドフォーラムが開催され、ジオパーク外のネットワークが、さらに強化されたと思っています。全国大会などで集まるたびに、新たなつながりが生まれ、多層的なネットワークによって、ジオパークの活動の質が向上し、それにより、地域が活性化していきます。JGNが作り出すネットワークが、日本各地を活性化しているのです。


    渡辺:研究者の立場から、一つ付け加えます。ジオパークの理念が各地域で理解されるようになってきて、地球科学を学んだ人や研究した人が、ジオパークやジオパークを目指す地域に雇用されるようになってきました。この写真は、今年5月の日本最大の地球科学学会で行われた、ジオパークでの就職を希望する若手研究者向けの説明会の様子です。今のところ、ジオパ-クにおける科学者の雇用条件は、様々で、必ずしも安定した職ではありません。しかし、多くの大学院生がジオパークで働くというのは、どういうことなんだろう、どんな仕事なんだろうといって、興味を持って集まってくれました。こうしたジオパークで働く若い科学者や研究者によって、地球科学の普及が進み、持続可能な社会のための教育が進んでいくものと私は期待しています。

    齊藤:科学の普及に関する活動は、研究者コミュニティの中で、必ずしも高く評価されていないということを聞いています。多くの研究者がボランティアに近い形で、JGNに対して様々な支援をしていただいています。日本の科学者のジオパークへの協力がもっと高く評価されるように願っています。
    終わりに、自治体関係者や地域住民は、地域の発展を目指して、それを求めて、ジオパーク活動を展開しています。

    渡辺:一方、我々、科学者は科学の普及や教育のために、ジオパークに協力しています。

    齊藤:こうした動機の異なる2つのグループが、JGNとJGCという2つの組織の下で、お互いに共感を深めながら、協力できたということが、日本のジオパークの成功につながったというように考えています。

    渡辺:私たちの講演が、各国で、国内ジオパークネットワークや国内委員会を運営しようとしているような人たち、今後のAPGNの活動の活性化にとって、役に立てれば幸いです。

    齊藤:そして、JGNは、APGN及びGGNに対する様々な協力関係を維持し、ジオパークに関わる多くの関係者が、幸せな関係を構築し、拡大していくことを願っています。

    渡辺:JGNは、今、私たちの経験をAPGNのために活用したい、運営に協力したいと考えています。

    齊藤:以上で、私たちの講演は終わりです。ご清聴ありがとうございました。

    <基調講演Ⅴ 平成27年9月19日(土)会場:鳥取環境大学>

山陰海岸ジオパークの最近の取り組み
Recent Activities in the San’in Kaigan Global Geopark


  • 山陰海岸ジオパーク推進協議会 会長
    中貝 宗治
    Muneharu Nakagai/Chairman of San’in Kaigan Global Geopark Promotion Council

    本日は、山陰海岸世界ジオパークについて、発表する機会をいただきありがとうございます。私たちは2014年にGGN会員として再認定されました。私は豊岡市の市長でもありまして、科学的な発表は期待なさらないでください。私からは科学の支援を得た市民についての活動について、話をしたいと思います。
    山陰海岸ジオパークは西日本の北側に位置し、日本海に面しています。この地域は西から東までおよそ120キロメートル、北から南まで30キロメートルで、3つの府県、3つの市、3つの町にまたがっています。この地域では、多様な地質、多様な生態、多様な文化を楽しむことができます。
    ゾウロス博士は、よく、ジオパークの「ジオ」は地質学を意味する「ジオロジー」から来ているのではなく、「ガイア」という単語が語源だとおっしゃいます。それはつまり、ジオパークは地球の遺産、あるいは地球の活動の遺産を意味し、そこには地質学上の特徴、生態、文化、気候が含まれるのです。
    では、山陰海岸ジオパークにとって、地球の活動に関わる主な活動とは何でしょうか。それは日本海の形成です。研究者によれば、この地質学上の歴史は3段階に分かれます。第1段階は大陸形成の時代です。第2段階は、日本海形成の時代です。第3段階は、日本列島の活動と現在です。

    <山陰海岸ジオパークのメインテーマ>
    山陰海岸ジオパークの主なテーマは、日本海の形成に関わって、形成された地質学上の特徴、生態、文化が主な特徴です。
    日本海が形成されたことによって、海洋活動が活発になり、現在も海岸地形が形成され続けています。
    周囲の砂洲により形成された潟、波浪浸食により形成された岩石海岸、その他多様な地質学上の形成物から成る、広大な沿岸環境があります。
    特に、鳥取砂丘では、砂の微地形を観察し、海岸の砂丘の形成と日本海がどのように関係しているかを学ぶことができます。日本の乾燥地研究は、この鳥取砂丘から始まりました。現在では、鳥取大学の乾燥地研究センターが、砂丘から世界中の乾燥地へ研究領域を広げています。また、鳥取砂丘では、日本で唯一の砂像彫刻を展示する美術館がある「砂の美術館」を楽しむことができます。
    一方で、山陰海岸エリア内の内陸部には、およそ2万年前に噴火した神鍋という火山があります。噴火の恐れのない火山で、冬季にはスキーが楽しめます。


    これは玄武洞といい、柱状節理の壮観な眺めを楽しむことができます。ここでは、国際的に非常に重要な発見がありました。地磁気の逆転の発見です。1929年に松山基範教授が初めて第四期の地磁気逆転説を発表しました。この発見は、海洋底拡大説に応用され、プレートテクトニクス理論に貢献しました。2009年には国際地質科学連合が、「松山逆磁極期」が始まる258万年前を第四期の始まりと定めています。玄武洞の柱状節理の前では、演劇の上演やコンサートの開催もあり、夜にはライトアップを行い、とても美しく幻想的な光景を醸し出しています。


    雨と日光にも恵まれ、多様な地質学的特徴が山陰海岸世界ジオパークの豊かな生物多様性を育みました。典型的な例はコウノトリです。玄武洞は豊岡盆地を流れる円山川の下流に位置します。この一帯は流域がボトルネックのように狭くなり、堆積物の流れを止めています。それによって、沼地が発達する理想的な条件が揃い、この沼地がコウノトリなどたくさんの種類の生物の生息場所となっています。
    野性のコウノトリは、日本では1971年に絶滅しました。農薬の使用、また、川と陸地の改修に伴う湿地の減少といった環境破壊が原因です。絶滅前の1965年、兵庫県と豊岡市は豊岡でコウノトリの人工繁殖に着手しましたが、長年、卵はふ化しませんでした。必死の努力を続けて、25年目の春、ようやく初めてひながかえりました。1989年に初めてふ化して以来、コウノトリの数は着実に増えています。
    ここで、日本におけるコウノトリの絶滅と復活について、映像をお目にかけたいと思います。話の主な舞台は豊岡です。

    ***ビデオ***

    これまで長い道のりを歩んできましたが、コウノトリを復活させる行く手はまだ長いのです。
    そして、多様な地質上の特徴によって、非常に変化に富んだ歴史と文化を育んできました。山陰海岸ジオパークエリア内のいくつかの港と街は、古くから海運で栄えました。
    私たちが住む地域には、様々な地形・地質や、気候によって育まれた多くの貴重な資源があります。その中で、ズワイガニは豊富な水産物の一例として有名です。本当においしいのですが、残念ながら今は漁の季節ではなく、冬に、また来ていただかなければなりません。地滑り地と海岸段丘は棚田として利用されています。鳥取砂丘の周辺で収穫されるラッキョウは、砂丘独特の農産物のひとつです。ここでは、農業を砂質の環境に適応させ、ラッキョウを栽培する方法を開発してきました。
    また、山陰海岸世界ジオパークエリア内の地域には、たくさんの断層があります。熱せられた地下水がこのような断層から湧き出しています。この地域に40を超える温泉があるのはそのためです。
    しかし、今、私たちが認識する必要があるのは、地球の活動をリアルタイムで直視すると、それが時として、私たちにとっては、大きな問題となる事が分かるということです。2011年には、東日本で構造プレートの活動が引き起こした甚大な災害がありました。日本は変成帯の上に位置しているため、日本のジオパークの活動には、自然災害がどのように発生し、災害をどのように低減するかを教え、学ぶことが含まれるのが特徴です。
    また、人々が自然の脅威に直面した後、どのように自らの独自性を作り上げたか、そのストーリーを学ぶこともできます。これは20世紀初頭の城崎の温泉街を写した写真です。


    1925年に北但馬地震が城崎を襲い、中心部は完全に灰と化しました。この地震の後、川と道路の幅が広げられ、防火用の隔壁として鉄筋コンクリートの構造物が作られました。兵庫県の行政はその後、市区町村に対して、ヨーロッパ様式で町を復旧させることを推奨しました。しかし、人々はそれを拒否し、日本の伝統的な景観を再建しました。


    現在、城崎温泉に滞在する外国人客の数は、このように増加しています。人々はなぜ城崎温泉に来るのでしょう。アメリカを見るためでしょうか。ヨーロッパを見るためでしょうか。いいえ、皆、日本の文化を楽しみたいのです。
    グローバル化の重要な側面のひとつに、世界に同じ基準を適用して、同じ製品、同じ店、同じ景観で世界を満たすという点があります。グローバル化の進展により、世界は急速にどこでも同じ顔を見せるようになり、それによって文化的には退屈になりつつあります。

    グローバル化のもうひとつの重要な側面は、世界が急速に小さくなっているということです。現在は、地方の人々が世界中の人と簡単につながることができます。こうした状況で、意識的にローカルであろうとすれば、世界中の人を惹きつけることができます。私たちはローカルですが、グローバルです。これが城崎の戦略であり、同じことは、山陰海岸世界ジオパーク全体にもその他のジオパークにも言え、これらは地球の活動がもたらした大きな意義ある地質、生態、文化というローカルな特徴で構成されているのです。
    この広大なジオパークをまとめ、事業を推進するため、2007年に山陰海岸ジオパーク推進協議会が設立されました。この協議会は、地方自治体から地域の商工会議所、また観光、漁業、ホテルの関係団体など、37の団体で構成されています。3府県の知事は顧問となり、6人の市町長が会長や副会長を務めています。
    協議会は運営委員会と事務局で構成されます。運営委員会の下に、学術部会、教育部会、ツーリズム部会、地域産業部会、保護保全部会の5つの部会があります。これらの部会では、異なる見地から望ましい活動について議論しています。事務局は事務局長のもと、11名の職員と企画課、事業課、国際課の3部門で構成されています。11名の職員のうち9名は各自治体から派遣されています。それでは協議会が実施した主な活動をご紹介します。
    2014年、協議会は次世代に向けて地域の資源を守る保全計画をまとめました。市民による清掃活動に加え、モニタリング調査を実施しています。
    また、山陰海岸世界ジオパークの学術研究を支援するため、協議会は、学生と若い研究者を対象に研究費を助成しました。報告会を開催することで、その研究結果を発表し、研究者間の交流を促進する機会を設けています。


    兵庫県は、昨年、ジオパーク、コウノトリの復活、地域資源マネジメントについて、多くの社会人や学生が学ぶことができる高等研究機関(大学院)を豊岡市に設置しました。
    教育部会の活動としては、子ども向けにカードゲームやボードゲーム、マンガなどの学習教材を開発し、体験学習授業を設けています。ジオパークエリア内の多くの学校では、生徒たちが山陰海岸ジオパークについて学んでいます。特に京丹後市では、小学校6年生全員が、毎年ジオサイトでの校外学習の授業に参加しています。
    妹ジオパークであるギリシャのレスボス世界ジオパークに生徒が派遣され、現地でレスボスの生徒たちとの国際交流を楽しむ教育プログラムを体験しました。
    私たちは、ジオツーリズムについても推進しています。美しい海岸線は山陰海岸世界ジオパークの目玉のひとつで、遊覧船に乗って、海から陸地の形成について見学することもできます。


    ジオカヌーのツアーも、参加者が海食洞などのジオサイトを間近に観察でき、人気があります。大変美しいです。

    ジオカヌーツアーの参加者数は、このように増加しています。
    協議会はジオパークガイドの認定制度を導入し、また、兵庫県立大学及び公立鳥取環境大学と、ジオパークの推進に関する連携協力の協定を調印しました。
    最後に、ジオパークの活動を行っているスタッフを紹介します。

    ***ビデオ***

    こちらがジオパークの活動を行っている私どものスタッフです。ここにいらっしゃる世界各地のジオパークでも、各自が独自の活動を楽しみましょう。誠にありがとうございました。

     

    <基調講演Ⅵ 平成27年9月19日(土)会場:鳥取環境大学>